1.われわれが確立したマウス腎腺癌の高転移株では、その転移能が癌細胞から分泌されるtype IV collagenaseとそれによるtype IV collagenolysisと良く相関していたことに注目し、この酵素の機能を阻害する薬剤を見出し、これがin vitro浸潤能、in vivo転移能を抑制するか否かを検討した。その結果、teracycline系抗菌薬がマウス腎腺癌のin vitro浸潤能を濃度依存的に抑制する結果が得られた。さらにこれに平行し、この薬剤がtype IV collagenolysisを抑制する結果も認められた。一方、in vitroの浸潤に関与する他の要因である癌細胞の細胞外基質への接着あるいは癌細胞自身の遊走能には全く変化は見られなかった。以上から、teracycline系抗菌薬がtype IV collage-nase活性阻害およびそれにtype IV collagenolysisの抑制により、in vitro浸潤能を抑制したと考えられた。さらに、マウス腎腺癌を用いた実験的肺転移の検討では、tera-cycline系抗菌薬が濃度依存的にマウス高転移株の実験的肺転移を明らかに抑制した。このことは、teracycline系抗菌薬が血管からの腎腺癌細胞のextravasationを、その作用機序であるtype IV collagenolysisの抑制という機序により阻止した物と考えられた。 2.これまで、lymphocyted-homing receptorであるCD44が、ある種の癌細胞ではその肺転移能に深く関与していることが指摘されてきた。この点に関して、マウス腎腺癌の転移株で検討したところ、高肺転移株ではその発現が強く認められたのに対し、高肝転移株あるいは低転移株での発現は低かった。したがって、CD44の発現は癌細胞の肺転移能に関与していることが示唆された。
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