研究概要 |
1.ヒト胎児の状態を心拍数変動によって評価する際に、必要最少限の心拍数は妊娠の進行に伴って変化するか否かを目的に、心拍数確率密度分布図を用いて解析した。妊娠の時期(妊娠23-40週)に拘りなく、数理的に保証される最少心拍数は9,000-10,000拍とほぼ一定の値であった。この臨界値における心拍数群の全変動は、67-75%が一拍毎の変動(Beat-to-beat variability)、25-33%が数拍に跨る変動(long-term variability)から成ることが証明された。 2.対称性検出による輪郭線から三次元形状を構築する筆者らが開発した方法を用いて、超音波断層法で得られる二次元長軸断面像から胎児胃の三次元形状を求めた。本法の応用によって、妊娠20-27週の期間、ヒト胎児胃は紡錘形であるが、妊娠27週以降大弯小弯および噴門部幽門部が明瞭になること、また妊娠37週以降に認められる胎児胃の大きさの減少は同時期の羊水量の減少と関連していることが明らかとなった。 3.諸種の胎児異常376例(妊娠21-42週)を対象に、超音波電子スキャンによって観察される胎児膀胱貯留尿量の経時的な変化の解析から、尿産生能の障害を招来する胎児疾患は腎尿路系の先天性形態異常の一群、双胎間輸血症候群非免疫性胎児水腫、子宮内発育遅延、上部消化管閉鎖であること、胎児尿産生能の異常は形態と機能との双方の発達過程における関連の下、個々の疾患に固有の妊娠の時期に異常を発現することが明らかとなった。 4.妊娠週数毎の妊婦好中球の活性酸素産生能の観察から、走化性ペプチド刺激による活性酸素産生値は数理的に有意な二群に判別された高値を示す群は妊娠19-22週に認められた。この群の妊婦血清は低値(妊娠7-18週、妊娠23-40週)を示す群に比べて、正常非妊婦好中球の活性酸素産生能を増強した。このことは妊娠の極めて限定された時期に、好中球は血清の作用による情報伝達系の働きが増幅され、活性酸素産生能が増強されることを意味する。
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