研究課題
一般研究(B)
ヒトの妊娠維持機構は複雑な免疫機構の上に成立していることは容易に想像される。二年間にわたる本研究では、ヒトの反復する生殖の中絶すなわち反復する自然流産症例を中心に、その全身および局所の免疫学的妊娠維持機構について研究した。本研究において最初に検討されたことは、1500組以上に及ぶ習慣流産夫婦を登録し、明らかに他の原因を有する例を除外し、残った症例の中で夫リンパ球を用いて免疫療法を行った473例を中心に研究を進めた。臨床上、本療法の妊娠維持成功率は約77.7%であった。夫リンパ球接種では、妻血中に遮断抗体や抗イディオタイプ抗体の有意な産生を認め、血中の細胞傷害性T細胞の減少とヘルパーT細胞の増加を認めた。また、フローサイトメーターを用いた抗夫リンパ球抗体の検討では、T-FCXMに有意な動態を観察したがB-FCXMでは有意な変化が見られなかった。一方、抗胎児リンパ球抗体は少数の妊娠例で検出されたが、その僅かな陽性率を考えると本抗体は妊娠維持に必須ではないと結論された。局所免疫機構としては、正常妊娠・子宮外妊娠例などの脱洛膜組織中の免疫担当細胞を正常の非妊娠子宮内膜組織中のそれらと比較したところ、CD3+/HLA-DR+細胞、すなわち活性化T細胞の有意(P<0.05)な減少が観察され、マクロファージ、NK細胞などが妊娠維持に関わることが示唆された。これらの研究成果はヒトの免疫学的妊娠維持機構を全身および局所の両面から解明したものであり、今後のヒトの習慣流産症例の臨床、免疫療法のアプローチに有意義な指針、理論を提供し得たと確心する。
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