ヒト正常被検者15例において、側頭葉顔面運動野および耳後部を小型円形コイルを用いて磁気刺激を行い、口輪筋より誘発電位を記録した。耳後部刺激では、同側口輪筋より潜時約45msecで4〜6mvの複合筋活動電位(短潜時反応)が記録され、左右の振幅比は80%〜120%が正常範囲と考えられた。さらに側頭葉顔面運動野を磁気刺激することにより、両側口輪筋より短潜時反応のほかに潜時約10msec(中潜時反応)および潜時約l40msec(長潜時反応)の複合筋活動電位が記録された。ネコにての実験では、気管内挿管、フローセン麻酔下にネコ口輪筋に同芯針電極を刺入し、耳後部および側頭葉顔面運動野を磁気刺激して複合筋活動電位を記録した。耳後部刺激では、ヒトとほぼ同様の短潜時反応が記録されたが、側頭葉顔面運動野磁気刺激では安定した再現性のある中潜時反応および長潜時反応波形は記録されず、現有する円形コイルでは的確な刺激部位を選択することが不可能であるためと考え、安定した反応の記録にはハの字コイルもしくはダブルコーンコイルによる刺激部位をより現局した刺激が必要であると考えられた。一方、側頭骨内顔面神経麻痺患者においては、軽症例でも誘発電位の振幅は電気刺激に比して著しく低いものの、従来の電気生理学的検査にて予後判定が不可能であった発症7日以内にても、磁気刺激による誘発電位が記録される症例はすべて発症2カ月以内に回復すると判定され、予後診断的価値が極めて高い検査法であることが確認された。また耳後部および側頭葉顔面運動野磁気刺激を組み合わせることにより、診断に苦慮することもあった中枢性麻痺と末梢性麻酔の鑑別が容易であり、さらに中枢性疾患における神経伝導路の障害の指導に、高い診断的価値を有することが明らかとなった。 以上より本検査法は、顔面神経障害のみならず各種中枢疾患の診断、病態の解明に重要な価値を持つ検査法であると結論した。
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