研究概要 |
(1)視性刺激遮断の条件と近視化:孵化後2日の白色レグホン雄の片眼あるいは両眼にプラスチックゴ-グルを装着し12時間明所12時間暗所の条件で飼育し2週間目に諸検査を行った。片眼に半透明あるいは黒色のプラスチックゴ-グルを装着した眼は20D以上の強度近視となり著明に眼軸が延長していた。両眼にプラスチックゴ-グルを装着した場合にも半透明あるいは黒色の差はなく両眼とも20D以上の強度近視となり著明に眼軸が延長していた。24時間暗所の飼育環境下ではゴ-グル装着眼で眼軸延長はみられなかった。 (2)組織学的検討:、ゴ-グル装着眼(実験近視眼)の後極部強膜軟骨層においてPDNA,decorin,TGF-β,IGF-II,phosphotyrosineの発現が増加していることが免疫組織化学によって明らかになった。このことから、実験近視眼の後極部強膜軟骨層における細胞増殖能の亢進と細胞外マトリックス合成能の亢進が形態学的に確認され、さらにTGF-β,IGF-IIなどの成長因子の関与が示唆された。電顕観察から実験近視眼の後極部強膜軟骨層において盛んなremodelingが行われていることが示唆され、後極部強膜線維層においてはコラーゲン細線維の狭細化、各細線維間隙の拡大が観察された。 (3)生化学的検討:上記の実験近視眼から後極部組織を採取し、bFGFおよびTGF-β2を抽出しELISAによって定量した。bFGFは近視眼で有意に低下し、逆にTFG-β2は実験近視眼で有意に増加していた。 (4)培養系での検討:1、ニワトリ胚強膜軟骨細胞にb-FGF,TGF-β,TGF-α、IGF-I,IGF-II,PDGF-AB,PDGF-BB,PDGF-AAを添加した結果、PDGF-AAで反応が無かった以外、全ての成長因子が軟骨細胞の増殖能を亢進させ、特にb-FGFの効果が顕著たった。2、ニワトリ胚網膜色素上皮細胞とニワトリ胚強膜軟骨細胞とをco-cultureした結果、co-cultureした群では軟骨細胞の増殖能が亢進した。3、ニワトリ胚網膜色素上皮細胞の培養上清中に、b-FGFが検出された。4、培養網膜色素上皮細胞とのco-cultureのシステムを用いて、従来から眼軸長延長を抑制するとされているアポモルフィンの作用機序を検討した結果、アポモルフィンは網膜色素上皮細胞を介して軟骨細胞の増殖を抑制することが示唆された。 (5)脈絡膜の伸展性:ウシの眼球各部位の脈絡膜の張力検査を行った。脈絡膜の前後方向の伸展度は輪状方向より伸びやすかった。このことは眼球が後極方向に延長することのひとつの説明になると考えられた。 (6)実験近視猿眼での検討:生後12か月のカニクイ猿の右眼に瞼々縫合をし、約4年後に開瞼し、以後9年間飼育した。これらについて諸検査を実施後、眼摘し組織学的検討を行い、最も近視度の強い一匹(-19D)に網膜脈絡膜病変をみた。この組織学的所見は短後毛様動脈穿通部で脈絡膜がヘルニア様に後方に隆起していた。電顕所見では、Bruch膜に強い加齢変化がみられた。そこで、実験近視の網膜脈絡膜萎縮の発生には加齢が関係していると思われた。
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