研究概要 |
本研究の目的は,原発性角結膜上皮疾患に対する有効な治療法を開発することにあり,第1のアプローチは,『自己角膜移植』の開発である。もし,患者自身の残存した角膜上皮を試験管内で増殖させ,再度患者に戻すことが出来れば理想的である。角膜上皮を喪失した症例では,結膜上皮細胞を角膜上皮様に分化させる手法が開発されれば有効な治療法になりえる。そこで第1段階として,角膜上皮細胞の培養およびその細胞を取り巻く増殖制御因子の局在と反応を検討し,角膜上皮細胞の増殖・分化に焦点をしぼった研究を行った。 まず,家兎角膜上皮細胞の培養法を昨年度に確立させたが,これを用いて人角膜上皮細胞の初代培養を試みた。いくつかの修正も加えたが,今年度には成功らしい結果を得ることが出来なかった。次に家兎角膜上皮細胞を初代培養し,SV-40のT抗原を組み込んだアデノウイルスをベクターとして,この細胞に取り込ませて不死化に完全に成功した。この細胞は正常角膜上皮細胞の性状をかなり維持しており,今後、実験的上皮移植実験へ進展させる予定である。角膜上皮の分化・増殖を規定する因子を検討するために,EGF,KGF,TGF-betaの局在部位とそれらに対する角膜上皮細胞の反応を検討した。その結果,KGFmRNAは角膜実質に存在し,そのreceptorは角膜上皮のみに存在し,KGFは上皮増殖を促進することが証明できた。TGF-betaについては,角膜上皮細胞にはbeta2が主に存在すること,上皮増殖を抑制することを証明し,分化・増殖への関与を考察した。また,人正常角膜上皮細胞からcDNAライブラリーを作成することに部分的に成功した。第2の角膜上皮移植後の免疫抑制剤の効果については,シクロスポリンの効果を涙液中のIL-2量を用いて検討中である。
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