本年度は、代表的癌抑制遺伝子であるRB遺伝子プロモーターの不活性化機構として、過剰メチル化が重要な役割を果たしていることを証明しえた。即ち、RB遺伝子のどの領域にも突然変異がなくとも、プロモーター領域に過剰メチル化が存在することにより、プロモーター活性が著しく減少して、発癌に至るという新しい発癌の可能性が示されたことになる。具体的には、私達は以前、現実のRB腫瘍において、RB遺伝子の突然変異がなくプロモーター領域近傍に過剰メチル化のみが存在することを見出していた。したがって仮に、プロモーター領域の過剰メチル化のみでRB遺伝子が不活性化され発癌に至っているのであれば、実際にRB遺伝子のプロモーターが過剰メチル化により失活することを証明する必要があった。そこで私達は、独自に、ルシフェラーゼをレポーター遺伝子としたプラスミドにおいてRB遺伝子のプロモーターのみをメチル化させる方法を考え出した。それで、RB遺伝子のプロモーター領域のみをメチル化させてみると、コントロールに比して約6%にまでプロモーター活性が低下した。更に、私達が以前報告したRB遺伝子プロモーターを制御する中枢であるRBF-1(私達の見出した新しい転写因子)及びATF結合塩基配列が1個のメチル基によりそれぞれの転写因子に結合できなくなることも見出した。したがって、網膜芽細胞腫の診断、体質診断にプロモーター領域の過剰メチル化の検出が有用であることを示すことができた。この方法論は、他の癌抑制遺伝子においても同様に適用されることと考えられ今後より一般的な悪性腫瘍においても検討されるべきであろう。
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