研究概要 |
歯胚には多種の細胞外基質成分が含まれているが、コラーゲンは主としてI,III,IV型であることが免疫組織化学及び生化学的研究で明らかにされている。即ち、I型コラーゲンは象牙質、セメント質、歯乳頭、歯根膜の主要な組支持成分であることが分かっている。しかし、それが支持成分としてのみならず、隣接する細胞に何らかの作用を及ぼす機能を有する可能性もある。III型コラーゲンは、殆どの結合組織でI型と共存しているが、その生理学的及び発生学的意義については不明である。一方、IV型コラーゲンは他の組織と同様に、歯胚でも基底膜に特異的に分布する。しかし、それ自体が歯胚の発生で果たす役割は明らかではない。 本研究は、I,III,IV型コラーゲンのmRNAに対する相補的に結合するantisense oligonucleotide(ASN)を培養歯胚に加えて遺伝子の発現を調節することによって、これらのコラーゲンの歯胚発生における役割を、主として形態学的手段で解析し、次の結果をえた。(1)I,III又はIV型コラーゲンのmRNAに対するASNを添加して培養した歯胚では、対照群に比べて歯胚の分化が遅れ、象牙質やエナメル質の形成の遅延がみられた。(2)I型またはIII型コラーゲンのmRNAに対するASNを添加したして培養した歯胚では、歯小嚢の形成が不充分で、エナメル器内における上皮性の封入体の存在や、歯小嚢の部分的断裂が見られた。(3)IV型コラーゲンのmRNAに対するASNを添加したして培養した歯胚では、象牙質やエナメル質の形成の遅延がみられ、エナメル器の歯頸彎曲部の形態異常が見られた。以上の結果は、歯胚発生におけるI,IIIおよびIV型コラーゲンの機能を理解する上で重要な知見となるものと考えられる。
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