本年度の研究では、脳細胞活動のマーカーとして、発癌遺伝子の1つであるC-fosを選び、C-fosの活性化によって細胞核内に生じるFos蛋白質を免疫組織化学の手法により染色した。口腔感覚刺激としては、味刺激に焦点をしぼった。 ラットの口腔内に種々の味刺激を与え、1時間後にかん流固定し、通法に従ってFos蛋白質を染め出したところ、最後野、孤束核尾側部、結合腕傍核(PBN)、島皮質などに数多くのFos陽性細胞を認めた。本年度は、このうち、PBNについて詳細に検討した。 味刺激の種類によってFos細胞は異なった局在分布を示した。すなわち、食塩水の刺激では内側亜核に、サッカリンでは腹部外側亜核に、キニーネでは外部外側亜核に、そして、塩酸の刺激では外部外側亜核から外部内側亜核にかけて、それぞれFos陽性細胞が局在化していた。このことは、PBNにおいて、味質応答局在性が認められることを示している。 食塩に対する味応答を抑制するアミロライドを作用させると、内側亜核のFos陽性細胞数は、対照群に比べて有意に減少したことから、この部にアミロライド感受性の食塩応答ニューロンが存在することがいえる。 味覚情報を伝える味覚神経を切断した場合のFos陽性細胞の分布を調べた。内側亜核では舌咽神経切断群に比べて、鼓索神経切断群と、鼓索神経+舌咽神経切断群はFos陽性細胞が有意に少なかった。このことから、食塩の味の情報は鼓索神経を経由することがわかった。 次年度以降は、味刺激によるPBN以上の部位でのFos陽性細胞の分布をみることと、味刺激以外の感覚刺激に対する分布を検索する予定である。
|