近年、高齢化社会の到来によって歯が侵襲される期間が長くなり、歯根露出に継発する歯頸部実質欠損や根面ウ蝕などの症例が増加しつつある。現在臨床応用されている各種象牙質接着システムの象牙質に対する接着性はいまだ十分な成績を示しているとは言い難く、修復後の経時的な辺縁適合性劣化に伴う微小漏洩や、これにより侵入した細菌による2次ウ蝕の発生を予防しうる修復材料の開発が急務である。従来、フッ素がエナメル質に対して歯質を強化し抗ウ蝕作用を示すことは知られているが、象牙質に対する作用についての知見は得られておらず、本研究では象牙質に対するフッ素の抗ウ蝕作用について検討した。フッ素を遊離する歯科材料としてはグラスアイオノマー系のセメントが知られているが、本研究では最近新たに開発された試作フッ素徐放性光重合型修復材を使用し、その物性を検討したところ、ヒト抜去歯の歯頸部5級窩洞または根面窩洞における辺縁漏洩試験で、市販されている各種従来型グラスアイオノマーセメントに比較して優れた結果を示した。本試作修復材から徐放されるフッ素量は他のグラスアイオノマー系セメントに匹敵し、その歯質への取り込みもX線マイクロアナライザーによって確認され、本試作材料より徐放されたフッ素による象牙質の耐熱性の向上が認められた。またこの修復材には酸性度を緩和するために水酸化カルシウムが添加されているが、実際に中性に近いpHを示した。動物実験においては、ほとんど歯髄に対する為害性を示さず、非常に生体親和性の高い充填材料であることが示唆された。これらの研究結果から、本試作フッ素徐放性光重合型修復材は、象牙質と化学的に接着しフッ素を長期間にわたって放出する機構を備えることにより2次ウ蝕の発生を防止し歯牙を長く口腔環境内で保存するために有用であることが示された。
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