咬合採得は咬合高径の決定と、水平的顎位の決定の2行程よりなる。著者らは水平的顎位の決定において、緊張性頚反射とEMGバイオフィードバックを応用した方法を開発し、多くの臨床症例においてその有用性を検証してきた。しかしながら咬合高径の決定には、いまだ客観性や再現性に優れた方法がなく、その開発が望まれていた。 著者らはすでに義歯床下粘膜の感覚特性の研究より、咬合床に作用する咬合圧を前歯部1に対して臼歯部1.3とすることで、咬合の高さ感覚に異常をもたらすことなく、咬合採得が可能であることを明らかにした。本研究は、咬合床の両側臼歯部と前歯部の3点に油圧ジャッキを応用し、一定の咬合圧比を保持しながら咬合高径を任意に変更し、患者の咬合高径に関する快適域を決定する臨床術式の開発を企図して行われた。 本年度はステッピング・モータ駆動型油圧ジャッキ装置を下顎咬合床に組み込んだ装置を作成し、無歯顎者10名に応用した。そして油圧ジャッキ法(以下本法と略)と通法によって咬合高径を決定し、操作性ならびに反復計測時の再現性を比較、検討して、以下の結果を得た。 本法で得られた咬合高径に関する快適域は、通法に比較して有意に狭いこと、また反復測定時の再現性が優れることが明らかにされた。さらに本法はステッピング・モータによる駆動法を採用したため、快適域の上限と下限をパルス数によって直読可能であり、臨床応用において操作性に優れるものと思われた。 一方本法の装置は試作品であるために構成が複雑であること、咬合床に装着するシリンダ径がやや大きく顎堤の小さな被験者には応用が困難であること、下顎咬合床の重量がかさむことなどの問題点の存在が明らかにされた。次年度はこれらの点を改善し、臨床術式としての成熟を図る予定である。
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