研究概要 |
上顎洞粘膜由来上皮細胞の生物学的特殊性,特に基底細胞から線毛円柱細胞への分化・発育,また再生力に関する特性を知ることから治療法や手術法の改良への考え方を得ることを目的として、培養学的実験を行った。まず,洞粘膜片の培養所見から,手術に関する臨床的検討を行った結果,組織片からoutgrowthする細胞のシート形成力は,極めて強く,炎症性病変時の洞粘膜の処置法として,消炎療法と外科的保存法により粘膜上皮の再付着や再生,または再構築の促進が期待される。特に,洞底に形成されることの極めて多い水様嚢胞は歯性病因によるものと考えているが,本病変では,滲出液の貯溜で洞底骨面上に挙上・剥離した病的粘膜部のみを切除するだけで,洞粘膜が再生し,露出骨面を被覆することがX線学的に推定され,手術法に役立つ根拠になることが判明した。 基底細胞は,扁平化生方向と線毛円柱細胞への分化・発育能のあることを光顕的,および走査電顕的形態から証明してきた。さらに,今回,扁平化生能の潜能のあることを,上皮細胞に対する各種モノクローナル抗体の応用による免疫組織化学的検索の結果,口腔組織培養研究会(平4年12月,於札幌市)で発表した。 現在,線毛円柱細胞の最大の特徴的機能である線毛運動を超高速度ビデオ(ナックMHS200型)を用いて分析途上にある。こゝで撮影された各線毛束(一定の線毛植立部に形成発現される線毛は収束化傾向あり。各線毛の動きは推定可能)の動態的分析の可能であることが判明したが,一定の線毛植立部の多数の線毛群の運動様式における同調性やmetachronismの発生機序を分析する点では,現状では十分でなく,現象的分析にとゞまっている。これに関しては,分析法を再検討中である。
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