研究概要 |
各種の炎症性病態下におかれ,障害された上顎洞上皮には再生能はあるのか,また線毛運動機能を再現獲得することは可能であるのかを培養学的直視下に証明することは,手術法や治療法の改良などへの考え方を得る一大根拠となる。これまで,基底細胞が線毛円柱細胞へと分化・発育し,一方で培養条件や細胞生着部の場の支配により拡大した細胞,扁平化生を生じるbipotentialityを有することを形態学的に報告してきた。歯性上顎洞炎の初期病態の一つと考えられるhydrocele部を被覆する上皮は,その粘膜下に貯溜した滲出液(化学的分析により既に証明同定・報告済)上に培養された組織片と考えてよい例も多い。これらを光顕的,走査電顕的に検討すると,in vivo,in vitroともに線毛円柱細胞の胞体が拡大し,扁平化所見を呈したことを推定させるものが多い。特に,in vivoで線毛の脱落した円柱細胞と類似の形態を示す例のみられることで裏付けられる。線毛細胞の最大の機能である線毛運動が何故生じ,隣接細胞と協調・協同運動を生じるか,また異物の搬送・排除機能に関して検討した。nac film motion analyzerにより,異物の流れを指標として線毛運動様相を解析した。細胞塊や組織片では線毛は協調・協同運動することを示したが,その分析情報量には限界があった。このため,単離細胞での線毛運動をみると,細胞骨格(少なくともアクチン)の関与が胞体自体の伸縮活動の運動源になっていることが判明した。そこで超高速度ビデオ(ナック MHS200型)により線毛運動の現象分析を行った。有効打,回復打の線毛移動を分析すると,ガラス面上に付着した細胞質にも,線毛運動と協調性のある位置的変動が認められ,前述の細胞内活動が線毛内に伝搬することが証明された。これは,これまで線毛内の構造的位置のズレによる発動機構だけではないことを証明した一大事実と考えている。
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