個体の成長発育は、個体固有の遺伝子とその発育環境との影響を受けている。そして、哺乳類の個体発育においては、母親の影響も大きいと言われている。この母体の影響は、大きく分けて出生前母体効果としての母体の子宮内環境と、出生後母体効果としての母体の哺乳・育児能力などが考えられる。本研究目的は、マウスの歯・顎・顔面頭蓋の成長発育における出生前母体効果の影響に加え、さらに出生後母体効果の影響をも解明することにある。そこで、実験動物として大型の近交系マウス(DDD/Qdj)と小型の近交系マウス(C57BL/Qdj)の2系統を用いて次のような実験を行っている。 (1)それぞれの系統で、新生児マウスの産出を行い、新生児マウスのうちの半数を2系統間でそれぞれ交換して、里親飼育および自家飼育を行っている。 (2)これら新生児マウスの出生直後からの体重の成長発育の様子を経時的に観察し、出生後母体効果の影響を検討した。 (3)また、このようにして得られた新生児マウスの顎顔面頭蓋についても、自家飼育新生児マウス群と里親飼育新生児マウス群との間で顎顔面頭蓋分析システムにより比較検討し、出生後母体効果の影響の大きさを検討中である。 現在6組の母親マウスから産出された新生児マウスの分析を行ない次の結果を得た。 (4)育てた母親マウスの系統は、新生児マウスの体重の出生後の成長変化の過程において有意な影響を及ぼしていた。 (5)遺伝的に均質化された新生児マウスを、自家飼育群及び里親飼育群としてC57BL母親マウスとDDD母親マウスに分けて育てさせると、DDD母親マウスが育てた新生児マウスの体重は、C57BL母親マウスが育てたそれより大きくなる傾向があった。このことは、新生児マウスの体重の出生後成長に対して、DDD母親の育児発育環境は、C57BL母親マウスのそれより、良好な環境であることを示唆している。 以上より、新生児マウスの生後の成長に、育ての母親マウスの影響が重要な働きをしていることが示唆された。現在、顔面頭蓋についての分析および母乳成分の分析も検討中であり、結果は逐次刊行予定である。
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