神経系の情報伝達に関与する神経伝達物質による免疫担当細胞の応答機構、また免疫系の情報伝達に関与するサイトカインの神経細胞の応答機構に関して、受容体の存在とその性質、およびその活性化に伴う蛋白質合成について遺伝子発現の点より解析した。ヒトヘルパーTリンパ球由来のJurkat細胞において、m3アセチルコリン受容体およびH_1ヒスタミン受容体が存在することが明かとなった。いずれの受容体を活性化しても百日咳毒素非感受性G蛋白質G_q/G_<11>を介してホスフォリパーゼC(PLC)〓を活性化させ、イノシトール_3-リン酸(IP_3)を産生し〔Ca^<2+>〕_iを一過性に上昇させること、さらに前初期遺伝子c-fos mRNAの発現誘導を引き起こすことが認められた。さらに、Tリンパ球の神経系からの調節機構を明らかにするために、ヒト末梢リンパ球を調製し、アセチルコリン(ACh)によるインターロイキン2(IL-2)産生の調節機構について検討した。AChおよびm3受容体アゴニスト(オキソトレモリンM、Oxo-M)の前処置によってレクチン(PHA)および抗CD3抗体刺激によるIL-2産生を促進した。さらに、Oxo-M前処置によってIL-2mRNA、IL-2受容体のα鎖およびβ鎖mRNAの発現量も増加していた。以上の結果から、m3受容体の活性化によってTCR/CD3によるIL-2産生およびIL-2受容体発現における翻訳活性が増強されることが示唆された。また、神経モデル細胞株NG108-15においてDBu-cAMP(Aキナーゼ活性化薬)およびTPA(Cキナーゼ活性化薬)刺激によってGAP-43mRNA発現が増加し、突起伸展が引き起こされることを明らかにした。さらにこの時、突起伸展に関与する新規遺伝子TA-20を見い出し、そのクローニングに成功した。さらに、脳における免疫担当細胞と考えられているグリア細胞においてエンドトキシン(LPS)刺激によって一酸化窒素合成酵素(i-NOS)が誘導され、Ca^<2+>非依存的にNOが産生されることを見い出した。LPSによるi-NOSの誘導はアクチノマイシンD(mRNA合成阻害薬)、シクロヘキシミド(蛋白質合成阻害薬)およびデキサメサゾン(抗炎症性ステロイド)処置によって完全に抑制されることから、この誘導には新たな遺伝子発現が必要であることが示唆された。また、産生されるNOによって神経細胞死が引き起こされることを見い出した。
|