粥状動脈硬化症をはじめとする各種血管病の発症、局在、進展などには、血流の力学的性質が深く関与しており、問題はいかなる力学量が決定的であるかを解明することにある。われわれは、血流と正常および異常の血管壁の相互作用を解明するため以下の計算力学的解析を行った。 1.運動壁をもつ生体内流れ場の解析 1.1心臓左心室 イヌ正常左心室の鋳型標本に基づく数値モデルをつくり、その内部の流れを計算によって再現できた。最近、拡張と収縮を連続して解析するシステムを開発し心不全時の心室内の機能的分節化を計算で再現した。 1.2.厚肉壁をもつ血管狭窄 実際の血管程度の厚みをもつ個体壁と、その一部に粥状動脈硬化斑を模した狭窄などの異常がある血管モデルにおける流れと壁の構造変形を連成して解析することが可能となった。 2.複雑3次元構造をもつ血管内流れの数値的可視化 分岐の角度および分岐の壁の曲率などをパラメトリックに変化させることができる3次元の分岐管モデル作成システムを開発し、非定常の計算を行い、流れが壁にもたらすずり応力の時空間的分布を可視化した。 3.細胞スケールにおける計算流体力学 内皮細胞の核の頂上における壁ずり応力を低下させるように細胞が運動するという仮定で、自発運動する細胞モデルを作成し、定常流れの条件で、血管内および培養内皮細胞の配向現象が説明できることを示した。これは、細胞レベルの創発的な形態形成と呼ぶことができ、今後の各種生体構造の発生機構の解明に有力な手法を提起するものと考えられた。
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