研究概要 |
抗下垂体抗体は,自己免疫性多臓器性内分泌障害の病因および発症の基本的メカニズムと密接に関与していると考えられている。我々はラット下垂体の細胞質分画を抗原としたWestern Blot法(WB法)により抗下垂体抗体の検出方法を確立し,その対応抗原を検索した。また,内分泌疾患を有する患者血清を用いて抗下垂体抗体を検索しその臨床的意義について検討した。WB法による各種内分泌疾患の抗下垂体抗体の検出率は,糖尿病のIDDM30例中12例(40.0%)に22kDaに陽性バンドが高率にみられ,また,NIDDM15例には認められなかった。甲状腺疾患では,バセドウ病53例中14例(26.4%),橋本病54例中12例(22.2%)に22kDaの陽性バンドがみられた。下垂体性疾患では,下垂体性小人症25例中11例(44.0%)と半数近い症例に検出されたが,ACTH単独欠損症3例,TSH欠損症1例には22kDaの陽性バンドは認められなかった。抗下垂体抗体の細胞質抗体は,22kDaのタンパクに対する抗体が主体であり,内分泌疾患と密接に関与して何らかの免疫学的発症性機序に関係しているものと考えられる。22kDaのタンパクは,可溶性細胞質分画の成長ホルモン(GH)関連タンパクと推定される。自己免疫機序による細胞損傷の過程においては細胞膜抗体のほうがより重要な役割を担っていると考えられている。我々の検討した症例の中には,明らかな細胞膜抗体陽性例は,確認できなかった。健常者50名中に22kDaに陽性バンドがみられた3名は何らかの内分泌疾患を思わせる臨床症状や臨床検査値の異常を認めなかった。 我々はラット下垂体細胞質分画をイオン交換高速液体クロマトグラフィにより抗下垂体抗体の対応抗原の分離分取を試みた結果,GH関連タンパクと思われる22kDaのタンパクが塩濃度200mM前後で溶出された。この試料を用いるWB法は,抗下垂体細胞質抗体を特異的に捉えることが可能となったが,細胞膜抗体を十分に捉えていない。今後,さらに検討すべき課題である。
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