研究概要 |
インスリンは膵島β細胞で前駆体として産生され、分泌顆粒に入る過程で、Cペプチドに隣接する塩基性アミノ酸対が限定切断をうけ、A鎖とB鎖から成る生理活性型インスリンになる。この限定切断は内分泌細胞に特異的で、線維芽細胞、上皮細胞、肝細胞のような非内分泌細胞では、遺伝子を組込んでもインスリンは前駆体として産生され、生理活性型に変換されない。ところで血液凝固因子や成長因子のあるものは、非内分泌細胞中で前駆体として産生され、生理活性蛋白質に変換されるが、この変換は-Arg^<-4>-X-Lys/Arg^<-2>-Arg^<-1>配列が蛋白分解酵素Furinで切断されることによる。そこで我々はラットプロインスリンcDNAをB鎖-Arg-Arg-Eys-Arg-Cペプチド-Arg-Arg-Lys-Arg-A鎖となるようにした変異cDNAを作製し、モンキー腎上皮由来COS,ハムスター子宮由来CHO,マウス胎児由来NIH3T3,ヒト肝癌由来HepG2の各細胞に導入し、発現させた。正常プロインスリンcDNAを発現させた各細胞の培養液をSephadexG-50ゲル濾過で分離すると、プロインスリン分画に約95〜98%、インスリン分画に2〜5%の免疫活性を得た。変異プロインスリンcDNA発現培養液ではインスリン分画にCHO50%、COS60%、HepG2 70%、NIH3T3 80%の免疫活性を得、NIH3T3でプロインスリンからインスリンへの移行が著しかった。そこで各細胞のFurinの発現を調べるために、RNAを電気泳動し、Northern blottingを行った。その結果、インスリンへの変換率が高い細胞程、Furin-mRNAの発現が高いことが分かった。そこでFurinの発現が一番低いCHOにFurin cDNAを発現させたところ、インスリン分画への移行はほぼ100%となった。このことは非内分泌細胞で変異プロインスリンを生理活性型に変換させているのはFurinであり、Furin発現の高い細胞は代用インスリン産生細胞として用いることができる可能性を示している。
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