研究概要 |
インスリンは膵島β細胞で前駆体B鎖-Arg-Arg-Cペプチド-Lys-Arg-A鎖として産生される。この前駆体は分泌顆粒に入る過程で,Kex2型転換酵素PC1/PC3,PC2によって塩基性アミノ酸対部分が限定切断され,新たに露出したカルボキシル端塩基性アミノ酸がカルボキシペプチダーゼH(CPH)によって除去され,A鎖とB鎖から成る生理活性型インスリンになる。この限定切断と塩基性アミノ酸除去は内分泌細胞に特異的で,線維芽細胞,上皮細胞,肝細胞のような非内分泌細胞では,遺伝子を組み込んでもインスリンは前駆体として産生され,生理活性型に変換されない。ところで我々はほとんどの細胞に存在する蛋白分解酵素Furinの切断をうけるようにラットプロインスリンcDNAをB鎖-Arg-Arg-Lys-Arg-Cペプチド-Arg-Arg-Lys-Arg-A鎖にした変異cDNAを作製し,非内分泌細胞で生理活性型インスリンへの転換を試みた。この変異インスリンをモンキー腎上皮由来COS,ハムスター子宮由来CHO,マウス胎児由来NIH3T3,ヒト肝癌由来HepG2の各細胞で発現させると、各細胞から培養液中に放出されたインスリン免疫活性はセファデックスG-50によるゲル濾過でインスリン分画にCHO50%,COS60%,HepG2 70%,NIH3T3 80%溶出された。次に各細胞のFurinの発現を,Northern blotで調べた結果,インスリンへの転換率が高い細胞程,Furin-mRNAの発現が高いことが分かった。更にFurinで切断されたインスリンのB鎖カルボキシル端の塩基性アミノ酸が正しく除去されているかどうかを調べるため,ゲル濾過のインスリン分画をイオン変換クロマトグラム(Mono Sカラム)で分析した。各細胞におけるCPHの発現をノザンブロットで解析すると,NIH3T3は多量の,HepG2は中等量のCPHを含んでいたが,COSとCHOではCPHは発現していなかった。しかし各細胞からのインスリンはCPH発現の有無にかかわらずスタンダードインスリンと同じ位置に流出し,インスリンから余剰の塩基性アミノ酸が未同定のカルボキシペプチダーゼによって除去されていることが分かった。このことは非内分泌細胞でも,Furinとある種のカルボキシペプチダーゼによって変異プロインスリンを正しくプロセスされた生理活性型インスリンに転換できることを示した。
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