研究概要 |
膵β細胞におけるCaシグナルはインスリン分泌の最も重要なシグナルである。研究代表者らはこのカルシウムシグナルの分子基盤を明らかにする目的で膵β細胞で発現し、カルシウムシグナルを調節する重要な因子のcDNAを単離し、その構造と機能の解析を行った。また、一部については糖代謝異常における遺伝子の発現についても検討を行った。1)膵β細胞型/電位依存性カルシウムチャネル。α1サブユニット及び3種類のβサブユニットのcDNAを単離し、その構造決定を行った。このcDNAを動物細胞の系で発現させ、電気生理学的解析を行ったところ、α1とβサブユニットを同時に発現させた時のみ典型的なL型カルシウムチャネル活性が認められ、このチャネルがインスリン分泌に重要な役割を演じていることが示唆された。さらにヒトのα1サブユニットの遺伝子構造を決定した。この遺伝子は第3染色体の短腕に位置していた。全長は120kb以上におよび50個のエクソンから構成されていた。グルコース注入により高血糖状態をきたすラットではα1サブユニットのmRNAの発現が著しく低下するのが認められた。2)イノシトール1,4,5三リン酸(IP3)受容体サブタイプのクローニング。膵β細胞におけるカルシウム動員の1つはIP_3受容体を介して発揮される。我々は膵β細胞で発現する新たなIP_3受容体サブタイプ(IP_3R-3)のcDNAを単離し、その構造及び機能解析を行った。現在まで同定されている3種類のIP_3受容体サブタイプのうちIP3R-3がβ細胞で発現する主要なサブタイプであることを明らかにした。3)G蛋白共役受容体のクローニング。ある種のG蛋白共役受容体はcAMPやphospholipaseを介してカルシウムシグナルを修飾することが知られている。代表者らは膵β細胞で発現するソマトスタチン受容体及びpituitary adenylate cyclase-activating polypeptide(PACAP)の新たなサブタイプのクローニングを行い、それらが共役するシグナル伝達についても明らかにした。そしてこれらの受容体が膵β細胞内カルシウムシグナルを修飾することを示唆した。
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