未知遺伝子への標的組換えである遺伝子トラップ法やトランスジェニックマウス作製法を用いて、形態形成の異常やヒト疾患モデルマウスの作製を試みた。遺伝子トラップ用のベクターは基本的に3つの部分からなり5'側から順にレポータ遺伝子であるlacZ、プラスミドDNA、そしてネオ耐性遺伝子でありる。lacZの発現が細胞によっては毒性になることが示唆されていた。そこでSV40の核移行シグナルをつけて核内で発現させと、毒性が減少することがわかった。ESトラップクローンを用いてAyulと名付けた未知遺伝子のプロモーターとその下流を単離した。Ayulプロモーターを接続したlacZ遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの解析により、この遺伝子は成体では大脳の神経細胞、胃、十二指腸の上皮細胞、精巣で発現していた。発生段階においては、腸管形成の始まる中腸とそれ以降の腸の上皮で強く発現していた。このことはこの遺伝子が腸管の形成に関与していることを示唆している。FISH法を用いてAyulの遺伝子座が第2番染色体のH領域にあることを明らかにした。しかし、この領域にマップされている既存のモデル動物である。Is(lethal spotting)とは異なることがわかった。 内胚葉とその誘導体、例えば肝臓の形態形成に関与する遺伝子を探索するうえで、ES細胞を培養してえられる胚様体の系が利用できるかどうかを検討した。その結果、肝臓のマーカー遺伝子でみるかぎり肝細胞の分化に呼応した遺伝子発現をすることがわかり、この系がスクリーニングの系として応用できることが示唆された。
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