研究概要 |
前年度は高エネルギー物理学研究所の放射光を利用して巨大ワイセンベルグカメラで測定したX線回折強度データを用いて,イースト菌のリポアミド脱水素酵素の結晶構造を分子置換法で解いた.本年度はこの構造から得られた位相を初期値として,位相の改善とモデルの構築,さらに構造の精密化を行った.通常の方法では位相の改善が難航したので,プログラムDENAFを新たに開発し,適用した.このプログラムでは二量体のサブユニット間の2回回転対称を利用してサブユニット間の電子密度を平均化し,さらに溶媒領域の電子密度をその領域全体の平均値で置き換え平滑化することによってノイズを消す.このようにして改良した電子密度をフーリエ変換して新しい位相を得る.改善を加速させるためにFoマップと2Fo-Fcマップを併用する.この計算を繰り返し,位相の変化が収歛すると,さらに分解能を上げて同様の計算を行う.このプロセスを繰り返すことによって電子密度が大幅に改良され,分子モデルの構築と修正が容易になった.分子力学と分子動力学を考慮した最小二乗法によって構造を精密化し,約83%のアミノ酸側鎖を付けた段階で,R値を0.226まで下げることができた.以上の結果は平成5年8月中国北京で開催された国際結晶学連合会議で発表した.現在さらに分子モデルの構築と修正,原子座標の精密化を行っている.一方,複合体の構造研究のために,イースト菌からピルビン酸脱水素酵素複合体の単離を行った.収率が低いので現在精製方法の改善を検討中である.これと並行してヒトのリポアミド脱水素酵素の遺伝子を得ることができたので,これを大腸菌に導入することを進めている.
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