近年、スポーツのパフォーマンスを決定する要因の1つに、筋線維組成が大きくクローズアップされてきている。この筋線維組成は遺伝的支配を強く受け、現段階ではトレーニングによるタイプの変換は生じないと考えられている。しかし、筋線維組成に関する研究はその大部分が横断的研究であり、縦断的に研究されたものは少い。そこで本研究では筋線維組成をスポーツ適性を発見するための重要な手がかりの1つと考え、ライフスパンの短い実験動物を用いて、遺伝学的に検討を試み、さらにその結果についてトレーナビリティの面から検討を加えようとするものである。すなわちラットを用いて選択交配法を適用し、(1)筋線維組成がどのくらい親から子へ受けつがれていくのか、(2)速筋線維の多いスプリンタータイプの筋線維組成を持つ個体を作り出すことは可能か、(3)もし(2)が可能であれば、先天的にFT優位型の組成を持つ個体のランニングパフォーマンス、筋酵素活性、トレーナビリティなどはコントロール群と比較してどのような特徴を持っているのかを検討課題として実験を開始した。まずWistar-Imamichi、Donryu、Fisher344の3系の雌雄ラット27匹でランダム支配を行い、基礎集団(G0)を作成した。G0から生後11週齢時に腓膜筋およびヒラト筋を摘出し、腓膜筋深層部を組織化学的に分析し、FT線維の割合の高いものを選択交配して第1世代(G1)を作成した。1世代の交代に要する時間は、妊娠期間3週間、性成熟まで約10週間であり、年間にほゞ3世代の交代が可能である。また、G0からランダム交配を行い、コントロール群を作成、実験群と同様に維持している。現在G1の仔ラット約250匹を継続飼育中であり、G2へ向けて、選択交配およびランダム交配が行われる。
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