運動中に^<31>P-MRSから観察した無機燐酸(Pi)が2本のピークに分裂することが知られている。しかし、従来の報告では^<31>P-MRSの測定時間分解能が悪いので運動中に分裂した2本のPiピークの動態は不明であった。我々は^<31>P-MRS測定を5秒毎に行えるようにRFパルスを調整し、得られたスペクトラの画像処理を行った。その結果、運動中の^<31>P-MRSからPiピーク分裂状況と筋pHの動態を視覚情報として捉えることが出来た。そして、このPiピークの分裂に関与する生理学的機構を解明するために運動強度、酸素吸入濃度、クーリングダウンの有無などからそれぞれのPiピークの動態を検討することを目的とした。 2.1-T、横置型NMR装置(直径67cm)内で膝屈曲運動を行った。運動中の^<31>P-MRSは5秒毎に測定した。得られたデータを一旦コンピューターにストアして、それぞれの燐化合物のピークの運動による変化の等高線処理及び、その疑似カラー表示を行った。また、PiとPCrの化学シフトから筋pHを求めた。 疲労困憊まで下腿屈曲運動を行った時の^<31>P-MRSのPiとPCrピークを等高線処理し、カラー表示すると運動中のピーク分裂状況が明確に分かる。運動開始後にはPCrピークは減少するが、Piピークは運動強度の増加と共に増加し、さらに運動が続くと2つのピークに分裂した。ここで、これらのPiピークの変化とPCrの化学シフト差から筋pHを求めると、運動前の安静時から存在するピークのpHは比較的高いのでhigh-pHの変化を示すピークであり、運動開始後に出現したもう1つのPiピークのpH値はlow-pHのPiピークであった。さらに、このPiピークの分裂に影響すると思われる運動強度の違い、酸素吸入濃度の違い、クーリングダウンの有無による違いを検討すると、high-pHのPiピークは酸化能力の高い繊維の動員を示し、low-pHのPiピークは解糖能力の高い筋線維の動員を示すことが示唆された。
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