本研究は万能プロテアーゼインヒビターとして知られるα2-マクログロブリン(α2-M)の新しい機能と利用方法を開拓する。α2-Mはトラップ機構と呼ばれる独特の捕獲機構で多種類のプロテアーゼインヒビターを捕らえ、受容体を介したエンドサイトーシスにより、マクロファージ、肝臓細胞、繊維芽細胞、神経細胞内部に入る。プロテアーゼがα2-Mの餌領域と呼ばれるアミノ酸配列を切断すると、これが引き金となって大規模な4次構造変化が生じてプロテアーゼを包み込むようにして生け捕りにする。α2-Mの発見以来未知であったこの機構の各ステップの速度定数を世界に先駆けて実測したのが第一の成果である。 つぎにα2-Mがマクロファージなど抗原提示細胞内に入ることを利用して、新しいタイプのワクチンの原理を開発した。従来の生物由来原料を用いるワクチンの副作用のない、合成ペプチドを利用したペプチドワクチンの開発は世界的に行なわれているが、問題は抗原性の低いペプチドに対していかに抗体産生を高めるかにある。そこで、本研究ではエイズウイルスの抗原エピトープを模した合成ペプチドをα2-Mに結合し、これをマウスに投与して抗体産生レベルを見た結果、抗体産生のレベルも飛躍的に高まることがわかった。 最後に、脳においてもα2-Mが生産されており、また脳細胞にα2-M受容体が存在する事から神経細胞に対するα2-Mの影響が興味を持たれている。本研究では培養神経細胞の培養液にα2-Mを入れることにより、神経突起の進展が誘発されることを確認し、受容体による取り込みを蛍光顕微鏡によって観察し、取り込みがあった細胞で突起進展が進んでいることを証明した。また、マウスの胎児ではα2-M受容体の脳細胞における発現が生後2日目位までで最大に達する事を知った。このような知見から脳細胞におけるα2-M取り込みの生理的意義を引き続き研究している。
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