研究概要 |
軟骨分化の開始には間充織細胞の細胞外マトリックス分子からの遊離が必須である。PG-Mによる細胞-基質接着反応の抑制的な調整がこの反応に関与する可能性をPG-Mの詳細な分布と細胞培養系における検討から示唆した。さらに、増殖や分化途上にある殆どの器官にPG-Mの合成活性が検出され、その細胞-基質間相互作用の調整活性の重要性が示された。cDNA解析によるPG-Mの全構造の決定に成功し、その抗-細胞接着活性の生物学的重要性を遺伝子工学的に解析することが可能になった。骨肉腫細胞MG63について、PG-MのアンチセンスRNAを発現させてPG-M異常合成を低下させたところ、正常細胞に近い細胞内骨格と接着班の形成を観察し、PG-Mの基本的細胞現象における関与が確認された。PG-Mによる抗-細胞接着の機構の解析を目指して、細胞膜表面画分からPG-Mのコンドロイチン硫酸鎖にカルシウム依存的に結合するレセプター様分子、58Kプロテインの単離に成功し、その性質から"グリコカルフィン(glycocalfin)"と命名した。V8プロテアーゼ消化ペプチド断片のアミノ酸配列から、グリコカルフィンはannexin VI様の分子であることが判明した。ヒトやマウス由来のannexin VIの解析結果から,チロシン残基のりん酸化などの関与が予想された。キャピラリー電気泳動法により精製標品のグリコサミノグリカン結合活性の特異性を調べたところ、コンドロイチン硫酸に高い親和性を示した。これらの成果は、プロテオグリカンのコンドロイチン硫酸鎖による抗-細胞接着活性がグリコカルフィンからのシグナル伝達を介する可能性を強く示唆する。基本的な細胞現象に関与している細胞-基質間の接着反応の少なくとも一部がプロテオグリカンにより調整される可能性が今回の科研費補助金研究により、強くなった。今後、その実証に向けて新たな研究を展開したい。
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