研究概要 |
細胞膜受容体刺激の情報はαβγサブユニットからなるGTP結合蛋白質(G蛋白質)を介して細胞内へと伝達されるが、G蛋白質はコレラ毒素や百日咳毒素によりADP-リボシル化されその機能が修飾されるので、情報伝達機構を研究する上で有用なツールとして利用できる。本研究では、細菌毒素が触媒するADP-リボシル化反応を利用して以下の知見を得た。 1.ウシ大脳細胞膜画分には、百日咳毒素によってADPリボシル化されるαサブユニット(41〜39kDa)を含む3量体G蛋白量が少なくても5種類存在し、それら5種のαサブユニットは、特異抗体との反応性やアミノ酸の部分配列の解析から、α_<i-1>,α_<i-2>,α_<i-3>,α_<o-1>及びα_<o-2>のcDNAによってコードされる産物であると同定された。また、G蛋白質を構成するβ(36/35kDa)およびγ(7〜9kDa)サブユニットにも分子多様性があり、種々のG蛋白質間で同一ではないことが明らかにされた。2.βγサブユニットを固定化したアフィニティーカラムを用いて、種々の細胞の細胞質画分よりβγサブユニットと結合し得る蛋白質を検索した結果、分子量93,000の蛋白質の存在がいくつかの組織、細胞に共通して観察された。2.この93kDa蛋白質は、ヒートショック蛋白質の一つである90-kDa Heat shock protein(hsp90)と同定された。3.Hsp90は百日咳毒素によるG蛋白質のADPリボシル化を阻害することから、βγサブユニットと結合しその機能を阻害するG蛋白質の新しい制御因子であると考えられた。4.一方、百日咳毒素のADPリボシル化反応を利用して、G蛋白質が細胞膜だけではなく核内にも存在することが明らかにされた。単離細胞核を用いた蛋白質の輸送系を開発し、この核内百日咳毒素基質のG蛋白質が核内へ輸送系に関与する可能性が示唆された。
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