研究概要 |
申請者は一群の呼吸系核遺伝子とミトコンドリアゲノムの転写調節領域に存在するMtシスエレメントに特異的に結合する蛋白質因子(MtEBP)がヒト、ウシ、ウサギとラットの核(nMtEBP)およびミトコンドリア(mtMtEBP)に普遍的に存在することを明らかにした。この結果はMtEBPが進化の過程でもその機能を保持し、異種遺伝子系間の協調発現において重要な役割を果たしていることを示している。ミトコンドリアには分子量の異なる2種類のmtMtEBP(それぞれMt3とMt4シスエレメントに結合する。)が存在し、ヒトミトコンドリアゲノムの複製に係わるD_-ループ領域、転写に係わるプロモーター領域および16SrRNA遺伝子内のMtシスエレメントに同一mtMtEBPが特異的に結合することをUV-crosslinking法にて明らかにした(Nucleic Acids Res.,投稿中)。興味深いことにミトコンドリアゲノムのL鎖とH鎖の転写に係わるプロモーターLSPとHSPからの特異的転写に関与する転写因子mtTF1の結合部位にもmtMtEBPが結合することを明かにした(投稿準備中)。この結果はこの蛋白質が転写調節に係わる因子であることを強く示唆するものである。またmtMtEBPは分子量的にnMtEPBとは異なる蛋白質であり、前者のMtシスエレメントへの結合はCa^<2+>によって著しく阻害されるのに対して、後者のそれは全く影響されない。以上の結果からnMtEBPは呼吸系核遺伝子群の協調的転写調節因子として、またmtMtEBPはミトコンドリアゲノムの転写調節因子として機能し、両遺伝子系間の協調発現を可能にしているとする仮説を提唱した。 また複製に係わるD_-ループ領域の3'末端、中央部そして複製開始点近隣に塩基配列あるいはDNA構造特異的に結合する5種類の異なる蛋白質因子を同定した(J.Biol.Chem.,投稿中)。 ウシ肝臓から以上の蛋白質因子をヘパリンセファロースと分子篩により大量精製した結果、これらは全て100kDa前後の分子量を持っていた。この結果はUV-crosslinkingによって得られた結果と一致した。またこれら蛋白質因子の結合活性はラット肝切除による肝再生に伴い2.4時間以内に5〜10倍に急増することを明かにした。これは細胞増殖分裂に伴うエネルギー需要の増大に対応するものであり、その生理的重要性を示唆するものである。
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