研究概要 |
申請者は本研究により以下の新知見を得た。1.呼吸系核遺伝子は異なる染色体上に散在する(文献参照)。協調発現に係わる新たな共通配列やこれに結合する因子を探るため複合体I24kDaサブユニットを単離した(投稿準備中)。転写開始上流2kbpにはMt配列は無く、プロモーターエレメントとしてGCboxのみが存在した。2.呼吸系核遺伝子とミトコンドリア(mt)ゲノムの転写調節領域に存在するMtシスエレメントに特異的に結合する蛋白質因子(MtEBP)が脊椎動物細胞の核(n-MtEBP)とmt(mt-MtEBP)に普遍的に存在した。精製したn-MtEBPおよびmt-MtEBPはそれぞれ4種類のポリペプチドより構成され、47〜55kDaのn-MtEBPが、また140kDaと180kDaのmt-MtEBPがMt配列に直接結合した。mtゲノムの特異的転写に関与する転写因子mtTF1の結合部位にもmt-MtEBPが結合した。これらの結果より、n-MtEBPは呼吸系核遺伝子群の協調的転写調節因子として、またmt-MtEBPはmtゲノムの転写調節因子として機能し、両遺伝子系間の協調発現を可能にしているとする(J.BIiol.Chemに投稿中)。3.複製に係わるD-ループ領域の3′末端、中央部そして複製開始点近隣に塩基配列特異的に結合する4種類の異なる蛋白質因子をヒトとラットにおいて同定した(Biochim.Biophys.Acta.,投稿中)。4.ウシ肝臓から複製終結に係わると考えられる新たな因子として申請者等が名付けた種間保存配列Mt5に特異的に結合する100kDaの蛋白質を精製同定した(投稿準備中)。5.これら蛋白質因子の量は肝切除あるいは門脈結紮による肝再生過程(同調した細胞分裂)で12時間後に4〜10倍に、また24時間後にmt mRNAレベルが2〜4倍に上昇した。肝切除の場合、mtゲノムのコピー数の変化は無いが、門脈結紮の場合、その上昇を伴った。この連続的変動は細胞分裂増殖に伴うエネルギー需要の増大に対応した複製と転写レベルでのmt遺伝子発現へのmtDNA結合蛋白質の関与を示唆する(投稿準備中)。以上の結合蛋白質は核からmtへの情報伝達因子として考えることができる。今後、これら蛋白質因子のcDNAをクローン化し、その機能と構造を解明する。
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