放射線による障害に対し生体のもっている抵抗力を増強する方法についてさまざまな検討の結果、骨髄死や腸死に対し有効な方法のあることが分かったが、そのメカニズムについては推測の域をでないので、この点について検討すると同時に、最近注目されている低線量放射線による細胞の反応を調べることにより、細胞がどの位少ない線量にまで応答し得るのかについて実験を行った。 腸死の軽減化のメカニズムについて細胞のギャップジャンクションを通しての抵抗力の増強があるのではないかと考えられたので、まずギャップジャンクションの機能を生きた組織のままで測定すべく、ラット胎児肢芽を材料とし、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、photo-bleaching法の開発を行った。画像のコンピュータ処理によりノイズを減らした結果、ギャップジャンクションを介しての蛍光物質の細胞間移入は時間に対しほぼ直線的に起こること、2GyのX線照射はその移入速度を約1/2に低下させること、同じような低下は催奇形性物質である5-アザシチジン処理でもみられることが分かった。次に腸死に対し軽減化作用のあるマレイン酸イルソグラジンの効果をみることと、この方法を小腸上皮に応用することがまだ残っている。他方、細胞がどの位までの低線量に反応するかを知るために、血管内皮細胞に0.01〜2Gyの放射線をかけプロスタサイクリン合成能の抑制効果を調べた。その結果0.05Gyの照射で有意な効果がみられた。しかもその効果は親水性のラジカル捕獲剤であるアスコルビン酸では影響を受けず、疎水性のαトコフェロールによって打ち消されるので、膜の部位で起こっていることと推測された。これは細胞死とはかけ離れた非常に低い線量の放射線に対し細胞が反応していることを示し、生体の防御機構はかなり低線量域の放射線から感度よく働いている可能性を示唆するものであり、今後より広い線量領域で研究を進めねばならないことを示している。
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