研究概要 |
精子、精細胞期における放射線誘発DNA変異感受性を定量的に調べる新しい方法を開発した。メダカ近交系HNI雄成魚に4.75Gy,9.5Gyまたは19Gy(O.95Gy/min.)のγ線を照射しメダカ近交系Hd-rR雌と交配した。照射が精細胞期と精子期に相当した受精卵を集め観察し、優性致死胚は死ぬ直前に、生存胚は孵化後2日以内に各々の個体からゲノムDNAを抽出した。直径約1mmのメダカ胚の各々からゲノムDNAを抽出する方法として、塩-クロロフォルム法を改良した。次に多数の試料でDNA変異を検出する系として、AP-PCR(arbitrarily primed PCR,Welsh & McClelland,1990)を用いたフィンガープリンティングを利用した。AP-PCRの特徴は、任意に選んだプライマーを多数の箇所にアニールさせPCRを行う点である。 親として用いた2つの近交系HNIとHd-rRは各々メダカの北日本集団、南日本集団由来でAP-PCRフィンガープリンティングで両糸統間に明確な多型が確認された。この2系統のF_1のフィンガープリントは親のそれの和になっていた。雄を照射する実験から得られたF_1で、照射によるDNA損傷がHNI系統由来のバンドの変化として検出された。 pBRプラスミドの一部分(15mer)をプライマーとして用いたフィンガープリントから、γ線によって精子、精細胞期の雄生殖細胞に誘発されたDNA変異の頻度を求めた。照射線量が増すと消失するバンド数も増加していた。このことは胚ゲノムDNAのAP-PCRフィンガープリンティングによって、雄生殖細胞でのγ線誘発DNA変異が検出でき、さらにDNA変異を負った、減数分裂を終了した雄生殖細胞は受精には参画できるが、生じた胚の多くは発生の途中で線量に応じて致死となり、集団中から排除されることがDNAレベルで確認されたことを示している。一方、生存胚におけるバンド消失の頻度も、線量が増すと多くなっていることから、生殖細胞DNAが、生存に直接には影響は与えないような多くの突然変異を照射線量に応じて次世代に伝えていくことを示唆している。
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