研究概要 |
真核生物の鞭毛が規則正しい波動運動を生じる機構は謎である.これまでの研究により、ダイニンの機能の理解がこの問題の解明に重要であると考えられる.鞭毛ダイニンには内腕と外腕があり、その中に合計8-9種ものATPase活性を持つ重鎖が存在する.まず各重鎖の働きを知る必要がある.本研究では単離精製したダイニン外腕重鎖を外腕欠失変異株軸糸にin vitroで結合し、再活性化した軸糸の運動性から各重鎖の機能に迫る試みを行った.われわれはすでにダイニン外腕全体(αβγ重鎖を含む)を用いてそのようなin vitro機能発現に成功しているが、本研究では新たに、解離した外腕サブユニットを用いて機能的な外腕の再機成を試みた.野生株鞭毛軸糸を高塩濃度溶液で抽出し蔗糖密度勾配遠心法で分画すると、外腕はαβ重鎖を含む18S粒子とγ重鎖を含む12S粒子に分離して得られる.本研究では、この2つの分画を外腕欠損変異株(odal)軸糸に加えることにより、外腕を再構成することに成功した.興味深いことに、その再構成には18S,12S粒子の他に沈降定数6S程度の分画を加える必要があった.その有効成分はこれまで外腕成分としては同定されていなかった分子量約7万の蛋白質であった.また思いがけないことに、この6S成分はodal株軸糸には欠損しているが、別種の外腕欠失変異株oda6の軸糸には存在することがわかった.また、oda6軸糸の周辺微小管上には外腕付着部位様の構造が観察された.すなわち、本研究により、外腕と周辺微小管の結合に関与する重要な因子の存在が示唆された.また、この因子の存在下では18S解離標品だけでもoda1軸糸に結合し再活性化後の運動性を上昇させることがわかった.すなわち、ダイニン外腕は、γ重鎖が欠失していても一定の機能を有すると結論される.
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