真核生物の鞭毛が波動運動を生じる機構において、運動の原動力を発生しているダイニンの機能が最も重要であると考えられる.鞭毛ダイニンは内腕と外腕があり、合計10種以上の重鎖が存在する.本研究では、各重鎖の機能に迫る目的で2方向の研究を行った.一つは重鎖を部分的に欠損したクラミドモナスの変異株を単離する試みである.まず、外腕のβ重鎖のC末部分を大きく欠失した変異株を単離し、この重鎖がα重鎖にくらべて外腕の働きに重要であること、および、それがダイニン外腕中ほぼ中央に位置することを示した.内腕に関しては重鎖の一部を欠損した新種の変異株2種を単離し、内腕重鎖7種のうち5種は運動性に絶対的には必須ではないことを明らかにした.次に2番目の方向の研究として、ダイニン重鎖の機能を試験管内で検定した.まず外腕重鎖を外腕欠失変異株軸糸にin vitroで再結合し、再活性化した軸糸の運動性から各重鎖の機能に迫った.ダイニン外腕標品はαβ重鎖を含む粒子とγ重鎖を含む粒子として分離して得られる.本研究ではこの2つの粒子を外腕欠損変異株軸糸に加えることにより、外腕を機能的に再構成することに成功した.また、αβ粒子だけでも結合して一定の機能を発現することを確認した.したがってダイニン外腕はγ重鎖が存在しなくても機能できると結論された.次にダイニン内腕をクロマトグラフィで7つの分子種に分け、それぞれをガラス表面に塗布して微小管滑走能を調べた。その結果、7つの分子種中6つに運動を生じる活性があることがわかった.最大運動速度は2-11μm/秒で、様々であった.また、その6種のうち5種に微小管を回転させる活性があった.一方、外腕ダイニンや、内腕の1種はin vitroでは運動活性を示さなかった.以上の結果は、鞭毛ダイニンが機能的に多様であることを示す.これらがどのように協調して鞭毛運動を発生するのかを理解することが今後の課題である.
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