研究概要 |
二本鎖DNAバクテリオファージの頭部は、凝縮したDNAを正20面体の蛋白質殻が包んだ構造を持つ。頭部形成は蛋白質集合体である頭殻前駆体(プロヘッド)内に、自己DNAを認識・選択して、ATPエネルギーを用いた能動移送により濃縮する過程である。本研究の目的は、T3ファージの頭部形成における自己DNAの選択と頭殻内への能動移送のエネルギー変換の分子機構を解明することにある。 T3ファージはT3コンカテマーDNA上の特異配列をクローンしたプラスミドDNAを詰め込み、形質導入することを見出した。この系を用いてDNA詰込みに必要なDNA配列(pac配列)はファージRNAポリメラーゼプロモーターを含むpacB配列とコンカテマーからのゲノムDNA切出し標的配列pacCの2つの機能ドメインからなることが分かった。T3,T7ファージゲノム上には複数のプロモーターがあるが、複製起点活性をもつものが高いpacB活性を持っていた。T3 pac配列を組み込んだプラスミドを近縁のT7ファージは詰め込めない。T3/T7ファージの自己DNA認識配列を同定するため、T3/T7キメラpac配列を持つプラスミド並びにBluescriptのT3/T7プロモーター間に互いに逆方向にT7 pacCを組み込んだプラスミドを構築し、T3及びT7ファージによる形質導入効率の解析により、転写特異性がDNA移送における自己DNA選択の中心機構であることが示された。 DNA詰込みに関与する蛋白質のなかで,gp19は唯一のATP結合蛋白質である。gp19にあるATP及びMg結合モチーフに座位特異的変異やC-またはN-端の欠失変異を導入して、その機能をT3ファージで開発された精製in vitro DNA詰込み系で解析し、gp19はC-端でプロヘッドに結合してDNA移送装置を構成し、ATPとの相互作用による構造変換を介して、DNA移送のエネルギー変換機構に中心的役割を持つことを示し、DNA移送におけるエネルギー変換機構についてのモデルを提唱した。更に、gp19は単独で非特異的DNA切断活性をもつが、DNA移送装置に構造化されると、この活性が特異的切断活性に転化し、コンカテマーからのゲノムDNAの切出しに関わることが明らかになった。
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