研究概要 |
ヘム生合成系の中間産物は光感剤として,光があたると活性酸素を発生するケースがある。大腸菌の光による応答はこうした活性酸素によって引きおこされる場合があることをこれまでの一連の研究で明らかにしてきた。ヘム生合成系の解明は光応答や調節に重要と考え研究を進めた。大腸菌のΔvisA(=ΔhemH)ミュータントから光抵抗性の復帰株を分離することにより,hem生合成系に関与する遺伝子のミュータントを得ることが出来た。それらを利用して,(1)これまで遺伝子解析がなされていなかった遺伝子のhemEおよびhemGのクローニングおよび塩基配列の決定を行なった。hemE遺伝子はuroporphyrinogen III decor-boxylaseの構造遺伝子であり,353アミノ酸からなるタンパク質をコードしていること,この酵素は大腸菌からヒトまで生物種間をこえて高いホモロジーがあること,などを見い出した。一方,hemG遺伝子はprotogen oxidaseの構造遺伝子と同定されていたが,解析の結果非常に小さなタンパク質をコードしており,サブユニットの一部であることが示唆された。(2)hem生合成に関与する二つの新しい遺伝子を発見した。そのうちhemKと名命した遺伝子は226アミノ酸からなるタンパク質をコードしており,hemA-prfA-hemKのオペロンを構成していること,この遺伝子の欠損によってプロトポルフィリンIXの蓄積はないが,プロトゲンの蓄積がみられることから、HemG関与のステップに働いている可能性が高いことがわかった。もう1つの新しい遺伝子についても,5-アミノレブリン酸以降プロトポルフィリンIXのいずれかのステップに関与していることが判明した。小原クローンによる相補実験から遺伝子座位を決定し(#460と#461で相補された),現在塩基配列を調べている。(3)大麦とキューリから大腸菌ミュータントの相補性により,hemAおよびhemHのcDNAクローンを分離することに成功した。植物の光合成に重要なクロロフィル合成系は途中のステップまでhem合成系と共通であり,これらの植物遺伝子の単離は今後光合成系の研究に役立つものと思われる。(4)hemH遺伝子はプロトポルフィリンIXにFeを入れる酵素,フェロキラターゼをコードしているが,この酵素の大量発現系を構築し,この酵素の大量精製を行なった。得た標品をもちいて,この酵素の生化学的物理化学的性質を明らかにした。なお同標品をもちいて,X線回折による高次構造の解析が進められている。
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