研究概要 |
生物の細胞、組織、個体を高温などのストレスにさらすと細胞レベルの応答として、進化的によく保存された一郡の熱ショック蛋白質の合成が一時的に誘導される。大腸菌では熱ショック遺伝子の転写に必要な転写因子σ^<32>が同定された。然し、細胞が温度変化をどのように感知し、細胞内で発生するシグナルをどのように伝達し、最終的にσ^<32>の機能増幅をもたらすかは殆ど分かっていない。我々はσ^<32>の合成促進が翻訳段階で起こることを明らかにし、さらにσ^<32>のmRNA上の翻訳領域内に位置する2つの領域がそれぞれ正、負の調節素子として働き、相互に2次構造を形成することにより翻訳開始反応を調節していることを発見した。 本年度の研究計画であったσ^<32>因子の翻訳段階で働く調節因子の検索と同定について、2つのアプローチを試みた。1)σ^<32>mRNAに結合する蛋白因子を検出する。2)σ^<32>の翻訳調節に異常を示す変異体のマルチコピーサプレッサーを分離し,解析する。これらの研究は進行中であり目立った成果はまだ得られていない。然し熱ショック応答の初期反応に関して特筆すべき成果があった。熱ショック応答の初期反応にはσ^<32>mRNAの高次構造による翻訳開始段階での調節に加えて、本来非常に不安定なσ^<32>が安定化されることにより、σ^<32>の細胞内量が増加し、熱ショック蛋白質の合成が誘導される。つまりσ^<32>の量の増加にσ^<32>の安定化が主要な制御になっている事を見つけた。σ^<32>の増加を引き起こすシグナルとして細胞内の異常蛋白質の蓄積が重要であることもあきらかにした。叉、σ^<32>の安定性に関与する領域を決めるためにrpoH-lacZ融合遺伝子を用いてrpoH欠失の導入を行ない解析した結果2つの特定領域がσ^<32>の安定化に関与している事がわかり、同時にこの領域とDnaK,DnaJの相互作用を示唆する結果も得た。
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