複製に必要とされるDNAヘリカーゼの検索をヒト培養細胞より行なった。これまで真核生物から複数のDNAヘリカーゼが単離されているが、複製に要求されるものは明らかにされていない。そこで複製に要求される活性ということに視点を置いてDNAヘリカーゼ検索を行うために以下の方法を確立した。 1.DNAヘリカーゼ依存的にDNA合成を開始するDNAアンワインディング配列をクローニングし、DNA合成活性に基づいてDNAヘリカーゼの機能を検索する。 2.一本鎖DNA結合タンパク質、RPAを反応に加え、この複製タンパク質依存的DNAヘリカーゼを検索する。 3.DNAヘリカーゼ基質を改良し、反応進行の連続性(processivity)の高いDNAヘリカーゼを検索する。 これらの方法を使いDNAヘリカーゼを検索した結果、ヒト培養細胞の核抽出液よりDNAヘリカーゼを一種、見いだした。核からの抽出様式から、このDNAヘリカーゼは細胞核に強く結合していると考えられたので、DNAヘリカーゼn(nuclear)とした。DNAヘリカーゼnは、沈降係数9.2S、見かけ上の分子量190kDaを示した。ATPとのクロスリンク反応によりこのDNAヘリカーゼのATR結合ペプチドは110kDaであることが分かった。DNAヘリカーゼの反応の方向性は、3′->5′であり、各種ヌクレオチド三リン酸の活性への要求性は、ATPで高い活性を示すが、dATP存在下ではさらにATPの4倍の高い活性を示すという特徴を持っていた。DNAヘリカーゼnの活性はヒト由来のRPAに依存しているのに対し、由来の異なる一本鎖DNA結合タンパク質、E.coilのSSBとT4ファージのgene32タンパク質では逆に阻害が観察された。したがってこの酵素はRPAと特異的な相互作用をすることにより活性を持つと考えられる。以上の特性を判断すると、既存のDNAヘリカーゼに対応するものがなく、DNAヘリカーゼnは新規のものと考えられる。特に複製タンパク質であるRPAに依存する点は、このDNAヘリカーゼが複製に関与することを強く示唆するものである。
|