研究概要 |
本年度は最終年度に当たり、これまでの研究で開発された培養システムを用いて、細胞間相互作用の実態を解析するために以下の項目について調べた。 1.PC12h-R培養後の培地上清について、神経線維誘導活性及びその成分分析を行った。蛋白質変性剤を用いた結果より、培地上清中の活性物質の1つは蛋白質であり、その分子量は130〜270kDaであると推定された。また活性物質は複数存在し、他にも高分子量物質として存在することが示された。 2.活性物質(化学的因子)以外に、物理的因子として、特に電気的な効果について、検討した。細胞を負に帯電した粒子とみなし、静電的電荷及び振動電場の神経線維出現に対する効果を調べた結果、静電荷の効果は見られなかったが、1kHz,2μAのような低電流の交流電気刺激によっても神経線維は出現することが示された。 3.作用様式の異なる因子としてNGF、db-cAMPの2点に絞り、これら因子の繰り返し作用による神経線維伸長収縮挙動をフロー型培養システムを用いて解析した。db-cAMPの繰り返し供給-除去に対して、神経線維の出現-消失、伸長-収縮は同調的であったが、NGFの場合は同調的でなく、さらに繰り返し作用によって神経線維出現応答が消失した。しかし続いてdb-cAMPを作用させると神経線維出現は誘導された。また、両因子の共存は神経線維出現応答に相乗的に働いた。 以上の結果は、本研究で開発された孤立細胞培養系及びフロー型培養システムを用いることによって初めて得られた知見であり、神経線維出現・伸長における細胞間相互作用には化学的・物理的両因子が複雑に関与していると結論された。
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