研究概要 |
本研究は、細胞の成長や分化に対して密に関与していると思われる細胞間相互作用について、特にその作用が顕著と思われる神経細胞に着目し、神経線維伸長諸過程における細胞間相互作用を調べることを目的として、平成4年度より3年間の計画で遂行されたものである。 平成4年度は、培養神経細胞PC12h-Rを用いて、線維誘導因子として神経成長因子(NGF)を作用させたときの応答(線維の発現、伸長、収縮、消失等の一連の現象)について調べた。そして神経線維伸長過程解析法、NGF及び共存細胞の効果の定量的評価法を開発すると共に、細胞間相互作用の全く無い系、すなわち孤立細胞培養システムを創案し、これらが以後の研究に極めて有用であることを示した。 平成5年度は、孤立細胞培養システムを用いて、PC12h-Rにおける種々の神経線維誘導活性因子の評価を行った。NCF以外の神経栄養因子(6種)、神経伝達物質またはホルモン(5種),セカンドメッセンジャー(1種)についてしらべ、線維芽細胞成長因子(塩基性)とセロトニンが比較的高活性を示したこと、また各々の因子について濃度依存性や時間依存性を調べた結果、線維伸長パターンが各々異なることが示された。さらに、孤立細胞培養系の条件を満たしつつ、かつ作用因子の種類や濃度条件を連続的に変えられるようなフロー型培養システムを開発した。 最終年度は、これまでの研究で開発された培養システムを用いて、細胞間相互作用の実体(化学的因子、物理的因子)について解析した。化学的因子としては、PC12h-R培養後の培地上清中の活性物質として分子量130〜270kDaの蛋白質が見い出され、物理的因子としては特に電気的な効果について検討し、低電流(2μA)の交流電気刺激によっても神経線維出現が示された。またフロー型培養システムを用いて、作用様式の異なる因子(NGF、db-cAMP)の繰り返し作用による神経線維伸長収縮挙動を解析し、応答性に差があることを明らかにした。 本研究で開発された孤立細胞培養系及びフロー型培養システムを用いることによって様々な新しい知見が得られ、神経線維伸長過程における細胞間相互作用には化学的・物理的両因子が複雑に関与していると結論された。
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