本年度はまずバナジン酸存在下で作製したチューブ状結晶の氷包埋クライオ電子顕微鏡法による三次元構造解析を分解能14A^^°で完成した。この結果、脂質二重膜中の構造が明らかになり、一次構造との対応もある程度つけられるものであった。従って、イオンの膜内の通路の位置を予想することができ、また、ATPが結合する位置に関しても候補が得られた。以上の結果は、現在ネーチャー誌に印刷中である。 この結果を踏まえて、次の目標を、ATP結合部位の同定とATP、Caイオン結合時の構造変化に置き、そのためにATPのアナログである、クロミウムATPの合成を行った。このアナログはCaイオン存在下でCa-ATPaseに結合し、加水分解されない。バナジン酸存在下でチューブ状結晶をクロミウムATPが結合したまま作れるかどうかが鍵であった。その検定のためにいくつかの方法を試したが、ATP分解活性を測ることと、原子吸光を測定することによって、少なくとも80%のCa-ATPaseはクロミウムATPを結合したままでいることを確認できた。現在、氷包埋法を用いて、データ収集を開始した。 一方、高濃度のCaイオン存在下で形成される三次元結晶に関しては、うまく再現できない状態が続いた。これは、Ca-ATPaseを色素カラムを用いてアフィニティ精製するさいに酵素が失活してしまうことや、脂質の取扱いが問題であることが判明した。この結果、二重膜が多数積み重なったタイプの結晶に関しては、8A^^°分解能の像が得られたが、まだ数が足りない。他の像に関してはどの方向から結晶を見ているかが問題になり、ソフトウエアの開発を急いでいる。
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