本研究では、カルシウムATPaseの異なった状態での三次元構造を、氷包埋低温電子顕微鏡法によって解析し、能動輸送の構造的実体を明らかにすることを目標としている。本年度は、昨年度に引き続き、クロミウムATPを結合させた状態での三次元構造を解析した。クロミウムATPを結合させるためには、カルシウムが必要であり、このカルシウムは、膜内に閉じ込められた状態になる。しかし、チューブ状結晶を作製するためには、EGTA、バナジン酸が必要であり、チューブ状結晶ができた時点で、クロミウム、ATP、カルシウムが結合したままでいるかが問題であった。ATPase活性、クロミウムの原子吸光、カルシウムのトレーサー実験を行い、クロミウムとATPは結合しているが、カルシウムは抜けてしまっていることがわかった。この状態のチューブ状結晶を、ATP非存在下と同じ14A分解能で解析し、三次元構造を得た。らせん対称性の同じものを選ぶことができたので、ATP非存在下のものと詳細な比較が可能であった。その結果、ATP結合部位と予想していた細胞質側のくぼみが埋り、そのすぐ上の領域が蓋をするように動いたことが認められた。また、膜内のA、Bフラグメント、内腔側にも明瞭な変化が認められ、ATPの結合による構造変化が内腔側にまで伝わることが確かめられた。 一方、チューブ状結晶の歪みを補正する一連のプログラムは、一応実用になる段階に達し、カルシウムATPaseのチューブ状結晶にも適応したところ、回折パターンの著しい改善が認められた。従って、個々のらせんを可視化できる可能性は非常に高くなった。
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