本研究では、カルシウムATPaseの異なった状態での三次元構造を、氷包理電子顕微鏡法によって解析し、能動輸送の構造的実体を明らかにすることを目標とした。まず、ATPとカルシウムがともに結合していない状態のチューブ状結晶から14A分解能で三次元構造を解析し、Natureに発表した。この結果、膜内構造は3つのセグメントからなるユニークなものであることが判り、アミノ酸配列から予想される二次構造ともかなりの対応がつけられた。さらに、加水分解されないATPのアナログであるクロミウムATPを結合させた状態の構造を、やはり14A分解能で解いた。両者のチューブ状結晶においてらせん対称性の同じものを選ぶことができたので、ATP非存在下のものと詳細な比較が可能であった。その結果、ATP結合部位と予想していたポケットが埋まり、そのすぐ上の領域が蓋のように動いたことが認められた。また、膜内のA、Bセグメント、内腔側にも明瞭な変化が認められ、ATPの結合による構造変化が内腔側まで伝わることが確かめられた。高濃度のカルシウイオン存在下で生成する三次元微結晶に関しては、10Aを越える分解能で、膜に沿った方向の像を得た。以上の研究によって、次の段階である時間分解構造解析の基礎を作ることができた。 一方、チューブ状結晶の歪みを補正するための一連のプログラムは、一応実用になる段階に達し、カルシウムATPaseのチューブ状結晶にも適用したところ、回折パターンの著しい改善が認められた。従って、個々のらせんを可視化できる可能性は非常に高くなった。
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