本研究では、分子シャペロンの一つであるシャペロニン(hsp60)を高度好熱菌Thermus thermophilusより精製、結晶化し、その三次元構造をX線結晶解析によって解明することを目的とした。 1.高度好熱菌Thermus thermophilusの培養、ならびにシャペロニンの精製を行い、結晶化用標品を得た。 2.ポリエチレングリコールを沈澱剤に用いて、種々の条件で結晶化を行ったところ、平板状および六角柱状の2種の結晶が得られた。 3.高エネルギー物理学研究所のシンクロトン放射光を用いて巨大分子用ワイセンベルクカメラによって、この2種の結晶のX線回折実験を行ったところ、平板状結晶は10Å、六角柱状結晶は7Åの分解能の反射が観測された。また、それぞれのX線回折写真を多方面から撮影して、結晶学的データを決定することができた。平板状結晶は単斜晶系、空間群P2あるいはP2_1、六角柱状結晶は六方晶系、空間群P6_322に属することがわかり、それぞれの格子定数を算出した。 4.結晶のSDSおよびnativeのポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果、平板状結晶にはホローシャペロニンの超分子複合体(分子量60Kのcpn60の14量体+分子量10Kのcpn10の7量体)が含まれ、一方、六角柱状結晶には、複合体が解離して得られたcpn60の単量体が、さらにタンパク質分解酵素による分解を自然に受けて分子量50Kの断片となり、これが結晶内に含まれていることがわかった。 5.六方晶系結晶の結晶性向上を目指して、1)自然に分解を受けたシャペロニン標品を精製したもの、2)その分解を受けた切断箇所と同定しトリプシンなどのタンパク質分解酵素で意識的に切断したもので結晶化を行った。その結果、異なる格子定数の結晶が得られ分解能も向上したが、これまでのところ、原子レベルの分解能には至っていない。
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