生体内にはさまざまなイオンチャネルが存在し、生体内の情報伝達において中心的役割を果たしている。それらチャネル分子の構造と機能が如何に結びついているかは、物理学的にも、生理学的にも非常に興味深いことである。今までいくらかのイオンチャネルが単離されそのアミノ酸配列が遺伝子配列から推定されてきた。しかし、その構造と機能の関連性については不明な点が多い。この点を克服するためには生体内に多数存在する未知のチャネル分子の同定と単離が不可欠である。今までのチャネル分子の単離にはそれに結合する特異的なリガンドが用いられてきた。しかし、全てのチャネルに対して、適当なリガンドが存在するとは限らない。我々は最近、脂質平面膜法をアッセイ系として、チャネルタンパク質の精製に成功したが、本研究ではこの方法を更に発展させ未知のチャネル分子の同定・単離を行い、それらの構造と機能の連関を明らかにすることを目的とした。 前年度までに、同定・精製法を確立した、筋小胞体Clチャネル蛋白に対するポリクローナル抗体を作成した。また、このチャネル蛋白の、アミノ末端から数残基の配列を、エドマン法により決定した。このアミノ酸配列は、既に知られている筋小胞体蛋白の何れとも相同性がなく、また、他の器官の既知のチャネル蛋白との一致も全く見られなかった。これは、未知の蛋白の精製に成功した事を示している。現在、この配列から、プローブを作成し、上記の抗体による方法と併せて、cDNAのスクリーニングを行う予定で準備中である。 一方、生化学的な分離精製と並行して、カエルの卵母細胞を用いた分子生物学的手法による、筋小胞体チャネル蛋白の一次構造決定も試みている。現在までのところ、骨格筋のmRNAを注入する事によって、卵母細胞の表面膜に、neomycin-Bによって抑制される陽イオン性電流を発生させる事に成功している。
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