CaMV35Sプロモーターを連結したrolC遺伝子を作成し、このキメラ遺伝子を導入したベラドンナについて自家受粉後代植物をP1隔離温室で自然条件下で栽培し、その形態や生理特性について検討した。その結果、形態的に明白な違いのある三種に分類できた。第1のタイプは、正常(非形質転換)体とほぼ同じ形態及び花芽分化を示した。第2のタイプは、形質転換当代植物と同様に、節間がつまり、全体として小型となり、さらに、本葉が出始めるとすぐに花芽を分化した。第3のタイプは、第2のタイプよりさらに全体が小型化し、成長が著しく抑制され、花芽が分化しなかった。このような3タイプの分離比は、タイプ1:タイプ2:タイプ3が1:2:1となり、導入したrolC遺伝子が単一の優性遺伝子としてメンデル遺伝をしていること、及び、ホモ接合体ではrolC遺伝子が強く働きすぎて植物の成長そのものに悪影響が出ることを示している。この結果は、rolC遺伝子を育種に利用する場合、強いプロモーターを使うとホモ系統として固定することで問題が生じる危険性を示している。 一方、タイプ1及びタイプ2の個体についてその内生植物ホルモンの定性・定量分析を機器分析あるいはモノクローナル抗体を用いたELISA法で行った。その結果、茎葉部では、アブシジン酸、サイトカイニン、ジベレリンの含量がタイプ2でわずかに増加していたものの、根部では差が見られなかった。また、タイプ1及びタイプ2の個体をサイトカイニン、抗サイトカイニンあるいはジベレリン等で処理したところ、形質転換体に固有の性質である花芽の早期分化の誘導あるいは抑制が認められなかった。このことは、rolC遺伝子の機能は、これまでに報告されていた糖結合型サイトカイニンからサイトカイニンを遊離させる酵素である可能性はほとんど無く、これまでにない全く新しい生理機能を考えなければならないことを示している。
|