研究概要 |
本年度は古紙再生プロセスにおける技術的問題及び環境負荷に関する基礎的な諸問題の解明の出発点として,古紙処理の前処理過程のモデルとしてパルプ繊維の熱および水分環境の繰り返し変動による変化,古紙処理のアルカリ膨潤過程のモデルとしてアルカリによるパルプ繊維の伸縮とセルロースの結晶変態の観察,更に古紙の脱墨による再生紙の白色度の変化のモデルとして再生紙見本,無彩色の印刷色見本の分光測色計による計測およびカラーイメージスキャナによる色彩科学的パラメータの解析を行なった.研究実績を要約すると以下の通りである. 1.紙の利用および古紙の再生プロセスでは各種の熱及び水分環境の変動を受けるが,そのモデルとして紙の湿潤・乾燥過程の異なる紙の耐折強度を始めとする力学物性を調べたところ,これらの変動の履歴は繊維の角質化や内部応力の残存,残留歪などとして紙に滞留することが示唆された.またシートの表面粗さにも履歴が発現することが分かった. 2.古紙は初期の膨潤過程でアルカリの処理を受けるが,この処理により繊維は縦方向および横方向の伸縮を受け,またセルロースの結晶形が変動するが,特にアルカリの濃度と温度の影響が大きいことが分かった. 3.古紙の脱墨および漂白過程では繊維およびシートの白色度が大きな変動を受けるが,人間による再生紙の白さの認識および市場での品質評価に於て特に重要な可視光線領域内での色彩科学的パラメータの分析を分光測色計とカラーイメージスキャナにより行なったが,古紙の混入率の増大に伴う無彩色濃度の増大(黒に近ずく)と共に分光反射率が減少し,また測定波長が長波長になるに従い反射率が上昇することが分かった.また紙の白色度と表面粗さは白紙光沢として光学物性全般に大きな影響を及ぼすことが示唆された.
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