研究概要 |
1.無菌開放培養システムの構築ならびに無菌開放培養下における植物組織器官の分化発育制御による大量培養に関する総合的検討 本年度は,昨年までの成果を踏まえて無菌開放培養のモデルシステムを構築し,その特性を評価するとともに,該システム内での植物組織器官を培養して分化発育の制御ならびに大量培養による種苗生産と二次代謝物質生産に関する総合的検討を行い,無菌開放培養の実用化の可能性について評価した。 (1)無菌開放培養のモデルシステムの構築のための基礎的検討 安定に稼働する構造な無菌開放培養モデルシステムを構築する上で,水分の補給が最も重要な課題であった。そこで,ポンプや液面のレベルセンサー等を使用しない簡易水補給装置を開発した。この装置を使用することによって,液面のレベル制御が容易かつ安定化した。無菌開放培養の究極的な目的である自動化のモデルとして,X-Y軸の移動制御が可能な駆動装置を使用して,無菌開放培養物の上方にアームを駆動させ,無菌特性を調べた結果,問題なく無菌を維持することができた。また,種苗生産に必要な光照射について検討した結果,開放培養は障害物な全くないので光の照射効率が高かった。これに対して閉鎖容器の場合には,開放培養と比較して,20〜70%ほどの光の透過阻害が起った。 (2)無菌開放培養モデルシステムの構成と運転 前項の検討を踏まえて,簡易自動給水装置を付加したモデルシステムを構築した。 i)種苗生産用開放培養システム:ベラドンナ,シュッコンカスミソウなどについて種苗を生産した。生産した種苗は,順化処理を全く行なうことなく,容易に土壌に移植して栽培することができた。これに対して,閉鎖容器で培養した植物体は,順化処理をせずに栽培すると枯死するものが多かった。 ii)代謝物質生産用開放培養システム:ヒヨス培養根とニチニチソウ培養細胞を開放型ジャーファーメンターで培養し,閉鎖型培養槽の場合と同様な成育,代謝物質生産結果を得た。 (3)問題点と今後の展望 以上の研究を通して,最大の問題点の1つである水分蒸発は簡易給水装置により解決することができたが,微生物汚染の原因については新たにダニ類(主としてコナダニ)による汚染発生が生じたので,これに対する対策を講じることが必要である。植物の成育については良好な結果が得られ,特に順化を必要としない新たな種苗生産の自動化手段となりうるとする結果が得られた。今後は,実用化を目標に検討を重ねたい。
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