3年間の本試験研究は様々な試みを行う上で実に有効であった.その中でも、研究発足当初にはそれほど重視していなかった実験であったcaged化合物の活性化実験に平成6年度は取り組んだ。細胞内にcaged化合物を充填し、UV光を照射することでcageを解離し活性を持った物質の濃度を細胞内で瞬時に増大させその生理学的効果を検討する実験である。この種の多くの実験ではxenonランプが光源として用いられている。cageの解離に充分なエネルギーは得られるが、標本の広い範囲を照射し限局された領域での化合物効果の検定には不向きであった。共焦点光学系を用いることにより、ある時間のタイミングにcaged化合物を活性化することと共に、ある特定の微小領域での活性化が可能になった。たとえば、caged Ca 化合物Nitr-5を内耳有毛細胞に充填しUV-レザーによる活性化を行うとき、UVレーザーによるcageの解離に伴い細胞内にCaイオンが放出されK電流が増大する。しかも、細胞極近傍をUVレーザーで照射した場合にはK電流の増大は起こらず、細胞内を照射した場合にのみK電流の増大は観察された。非常に限局された領域でのUV照射とcaged化合物の活性化が可能であることを示すことができた。共焦点光学系を用いたcageの解離法は化合物の細胞内への充填の方法を工夫することにより、より広い細胞生理学分野への応用が可能であると考える。
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