行動毒性学は、物質の毒性を行動を指標として評価するものである。その目的とするところは、従来の方法によっては検知することができない微量の化学物質の悪影響が、行動上の機能低下や異常となって生じていると捉え、物質への接触あるは摂取と行動の異常との関係を明確にすることにある。本試験研究の意義は、行動を指標として毒性を評価するために必要なシステムおよび行動評価の方法を開発することである。初年度には、2段式動物実験用オペラント実験装置、実験制御システム、曝露システムを構築し、この装置を用いて、フリーオペラントでのレバ-押し行動の形成、反応の時間的分布、位置記憶課題での反応形成過程を見た。2段式オペラント実験装置において24時間連続してレバ-押し反応を観察した結果、レバ-押し反応は一日の狭い範囲に分布することがわかった。毒性物質の慢性曝露を行いながらオペラント行動を観察する実験装置として適当であることがわかった。また、レバ-押し反応によってエタノール蒸気が曝露される急性曝露実験を行い、反応の回数及び分布を見た。レバ-押し反応は中断されることなく、非曝露条件と同様に安定した反応分布が得られた。これにより曝露条件を、動物の反応によって統制し、急性曝露の効果を測定することができることがわかった。2つのレバ-を交互に押すという位置記憶課題では、反応頻度の安定している急性曝露条件下で交代に乱れが生じ、いわゆる正確さに問題が生じることが示された。しかし、慢性暴露条件下では、反応の分布が拡散するが、特に正確さに影響することはなく、ゆっくりと正確に交代反応が行われた。今後、フリーオペラントの行動観察により、行動毒性を測定するテストバッテリ-を発展させることが必要である。
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