超流動ヘリウム中の原子、分子、イオンの生成と分光学的研究

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04554010
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 藪崎 努 京都大学, 理学部, 教授 (60026127)
• 研究分担者: 高橋 義朗 京都大学, 理学部, 講師 (40226907) ; 水崎 隆雄 京都大学, 理学部, 助教授 (20025448)
• キーワード: 超流動ヘリウム / レーザー分光 / 磁気共鳴 / アルカリ原子

研究概要

我々が最初に開発に成功したレーザースパッター法により、超流動ヘリウム中にアルカリ原子を注入し、その光領域スペクトル、遷移の実験を行い、理論との対比を行った。本年度特に注意を払ったのは、アルカリ原子をレーザー励起した時、CsやRbなどの重い原子は光を放出が観測されるのに対し、それらより軽い原子は全く観測できないこと、またRbやCsに対しても、ヘリウム圧力のを増加させていくと、スペクトルの位置や幅の変化をもたらすだけでなく放出される光の強度が急激に減少するといった特異な現象の解明である。実験事実から、原子を取り巻くヘリウムの空間分布がこのような現象をもたらしていることを予想し、理論的考察を行った。CsやRb原子に対しては、1つのヘリウム原子との相互作用エネルギーが微細構造準位間隔より小さく、電子の全角運動量Jがよい量子数であるのに対し、軽いアルカリ原子では相互作用エネルギーの方が大きくLS結合が破れ、軌道角運動量Lが良い量子数となり、そのため原子の周りのヘリウムの分布が重い原子と軽い原子では大きく違い、そのため内部殻に近接するヘリウム原子の数が異なる。そのため軽い原子では基底状態と励起状態のエネルギーが接近、または交差し、スペクトルが大きく長波長側にシフトするか無輻射遷移を誘起するかの何れかが生じ、そのため実験的な観測ができないことがわかった。観測されたCsやRb原子のD_1とD_2線の強度比も同様な機構で説明できた。更に、D_2線の励起スペクトルが2成分に分離することを見いだし、これが原子バルブの四重極振動による一種のヤン・テラー効果であることを見い出した。

研究成果

• [文献書誌] T.Yabuzaki,T.Kinoshita,K.Fukuda,Y.Takahashi: "Laser Spectroscopy and Optical Pumping of Alkali Atoms in Superfluid Helium" Z.Phys.4月号(印刷中). (1995)
• [文献書誌] Y.Takahashi,K.Fukuda,T.Kinoshita,T.Yabuzaki: "Optical Pumping and Optical Detection of Magnetic Resonances of Alkali Atoms in Superfluid Helium" Z.Phys.4月号(印刷中). (1995)
• [文献書誌] T.Kinoshita,K.Fukuda,Y.Takahashi,T.Yabuzaki: "Optical Properties of Impurity Atoms in Pressurized Superfluid Helium" Z.Phys.4月号(印刷中). (1995)
• [文献書誌] H.Ito.T.Ito and T.Yabuzaki: "Accumulative Transfer of Transverse Magneti Moment between Spin-Locked Rb and Cs Atoms" J.Phys.Soc.Jpn.63. 1337-1344 (1994)
• [文献書誌] U.Tanaka and T.Yabuzaki: "Frequency Stabilization of a Diode Laser Using External Cavity and Doppler-Free Atomic Spectra" Jpn.J.Appl.Phys.33. 1614-1622 (1994)
• [文献書誌] Y.Takahashi,T.Maekawa,H.M.Shimizu,T.Yabuzaki: "A New Design of a Polarized Target for the Test of Time Reversal Invariance" Phys.Lett.B. 28. 27-30 (1994)